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最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)2108号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人飯島豊、同寺坂銀之助、同武井正雄の上告趣意は末尾に添附した別紙書面の通りである。

辯護人寺坂銀之助、同武井正雄の上告趣意第一點について。

記録を調べて見るに本犯行の行はれたのは昭和二三年三月六日午後九時半頃であり、翌七日午前三時四〇分頃犯行現場からあまり遠くない被告人の居宅において被告人の就寢中逮捕されたものであって、犯行の時から発覺まで僅か六時間と一〇分ほど經過したにすぎない、被告人は就寢中であった爲め、顕著な犯罪の痕跡のある被服の一部は被告人の身につけて居なかったが、被告人の寢室中に在ったのであるから、所謂準現行犯として逮捕したものであることを推認し得る。しかし所論の如く厳密に言えば、本件逮捕は舊刑訴法第一三〇條第二項に當らないと見るのが妥當であるから、本件の逮捕は違法であるといわなければならない。しかし勾留状を発した手續其ものについては、何等違法と認むべきところはないから、勾留状そのものを違法であるとはいゝ得ない。論旨は違法な逮捕に基いて発せられた勾留状であるから、勾留状もまた不當違法であると主張するが、獨自の見解にすぎない。すでに勾留状が適法である以上、勾留中になされた訴訟行爲を違法であると主張する論旨は採用しがたいばかりでなく、逮捕手續の違法は原判決に影響を及ぼさないこと明白であるから、本件逮捕手續の違法は破棄の理由とはならないものである。(昭和二三年(れ)第七七四號同年一二月一日大法廷判決参照)なお論旨は、勾留状請求書には被疑事実として司法警察官逮捕調書記載の犯罪事実を記載しているが、本件記録中には右調書は存在しないから、勾留請求は無効であると主張する。しかし逮捕に關する司法警察官の書類としては逮捕手續書が記録中に編綴され、其手續書には所論の記載があるから、所論逮捕調書は逮捕手續書の誤記であること明白である。從って此點についての論旨も理由がない。(その他の判決理由は省略する。)

よって舊刑訴法第四四六條により、主文の通り判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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